介護士として老人ホームで働いていると、毎日のように「人の想い」と向き合います。
「もう一度自分の足で歩きたい」
「できる限り家族と笑顔で過ごしたい」
「最後まで自分らしく生きたい」
そうした入居者様の想いや、ご家族が抱く願いに触れるたびに、私は考えます。
「人の頭の中にあるビジョンは、どのくらい現実になるのだろう?」と。
今日は、そんなテーマについて介護の現場から感じたことをお伝えしたいと思います。
ビジョンは「願い」から始まる
私たちが何かを実現したいと思うとき、それはまず「願い」として心の中に浮かびます。
「元気になりたい」
「自分でご飯を食べたい」
「家族に心配をかけたくない」
年齢を重ねても、この「願い」は消えることがありません。
むしろ、人生の終盤だからこそ、「どう生きたいか」「どう過ごしたいか」がより鮮明に心に浮かぶのかもしれません。
そしてこの願いこそが、「ビジョン」の始まりです。
ビジョンがある人とない人の違い
これまで多くの入居者様を見守ってきましたが、心の中に「こうなりたい」というビジョンを持っている方と、「もう何も望まない」と諦めてしまっている方とでは、日々の表情や行動がまったく違うことに気づきます。
ある方は、「孫の結婚式に出席したいから、もう少し体力をつけたい」と目標を語ってくださいました。その方はリハビリの時間をとても大切にし、少しずつ歩ける距離を伸ばしていきました。
一方で、「もうどうせ無理だから」と口にしていた方は、体だけでなく心の元気も失っていくように見えました。
ここで改めて思うのです。
ビジョンがあるかどうかで、人の生き方はこんなにも変わるのだなと。
小さな現実化の積み重ね
「ビジョンは必ず現実になるのか?」と問われれば、正直に言えば「すべてがそのまま叶うわけではない」と答えるしかありません。
例えば「もう一度走りたい」という願いを抱いていても、身体の状態がそれを許さない場合もあります。医学的に難しいケースも少なくありません。
けれども、私は介護士としてこう感じています。
ビジョンは形を変えて必ず現実になると。
「走ること」は難しくても、「歩く距離を少し伸ばすこと」や「車椅子を自分で動かせるようになること」は実現できるかもしれない。
「家に帰りたい」という願いがあっても、完全に帰宅するのは難しくても、「家族に会える時間を増やす」「自分の部屋に馴染みの家具を置く」ことで、その思いを実現に近づけることはできる。
つまり、ビジョンはそのままの形ではなくても、「小さな現実化」として積み重なっていくのです。
信じることの力
ここで大切なのは、「そのビジョンを信じること」です。
介護の現場で働いていると、「もう無理だからやめておこう」と考えるご本人やご家族の声を耳にします。けれども、信じる気持ちを失ったとき、本当に前に進む力は弱くなってしまいます。
私自身も、入居者様にこう声をかけることがあります。
「できるかどうかはわかりません。でも、やってみましょう」
「一緒に少しずつ挑戦してみましょう」
そう声をかけると、不思議と皆さんの表情が変わり、ほんの少しでも前に進む力が湧いてくるのです。
信じることは、時に薬よりも強い効果を生み出すのだと感じます。
ご家族に伝えたいこと
ご家族の方も、大切な人が弱っていく姿を目にして、不安や諦めの気持ちを抱くことがあります。
「昔のようには戻れない」
「現実はそんなに甘くない」
そう思うのは自然なことです。
でも、どうか心の片隅に覚えておいてほしいのです。
「今頭の中にあるビジョン」は、そのままではなくても必ず形を変えて実現していくということを。
「もう一度旅行に行きたい」という願いがあれば、施設の中で小さな「旅行気分」を味わうイベントを企画できるかもしれません。
「家族でご飯を食べたい」という願いがあれば、施設にご家族が集まって一緒に食事を囲む日を作れるかもしれません。
その一つひとつが、本人やご家族にとってかけがえのない現実となります。
介護士としての私のビジョン
ここまで「入居者様やご家族のビジョン」について書いてきましたが、実は私自身も介護士としてのビジョンを持っています。
それは、
「入居者様が最後まで自分らしく生きられるように支えること」
「ご家族が安心して笑顔で関わり続けられるように寄り添うこと」
毎日の業務に追われていると、そのビジョンがぼやけてしまうこともあります。
けれども、入居者様の笑顔や「ありがとう」という言葉をいただいたとき、「ああ、私のビジョンは確かに少しずつ現実になっている」と実感するのです。
今、あなたの頭の中にあるビジョンは?
もしこのブログを読んでいるあなたが、「こうなりたい」「こんな日々を送りたい」というビジョンを頭に思い浮かべているなら、どうか大切にしてください。
そのビジョンは、今すぐには叶わなくても、必ず形を変えて現実になっていきます。
大切なのは、
「信じること」
「小さな一歩を積み重ねること」
「誰かと一緒に歩むこと」
この三つだと思います。
さいごに
介護の現場で出会った多くの方々が、証明してくれています。
「頭の中にあるビジョンは、必ずしもそのままではないけれど、形を変えて現実になる」ということを。
だからこそ私は、これからも入居者様とご家族のビジョンを信じ、支え続けたいと思います。
そして、今この文章を読んでくださっているあなたにもお伝えしたいのです。
どうか、今頭の中にあるビジョンを諦めずに大切にしてください。
それは必ず、あなたの人生の中で何らかの形となって現れてくるはずです。
最後までお読みいただきありがとうございます。