介護の現場にいると、日々「人は支え合って生きている」ということを実感します。
入居者様の暮らしを支えることが私たち介護士の仕事ですが、そこには「支える側」「支えられる側」という単純な関係だけでは語りきれない、深い人間模様があります。
介護の現場に立ちながら、私はふと考えることがあります。
――「支えること」ばかりに目を向けているけれど、私自身は誰かに支えて欲しいことはないだろうか?
支える人ほど、支えを求めにくい
介護士に限らず、人を支える仕事や立場にある方は多いと思います。親として子どもを支える人、職場で部下や同僚を支える人、地域や友人関係の中で誰かを支えている人。
支えることに慣れている人ほど、実は「自分も支えられていい」という発想を忘れてしまいがちです。
「自分が弱音を吐いたら迷惑をかけるのではないか」
「人に頼るのは甘えではないか」
そんな思いから、心の中で「大丈夫」を繰り返してしまうのです。
けれど、人間は誰しも完璧ではありません。支える側の人間であっても、心が折れそうになる瞬間は必ず訪れます。
入居者様からの逆の支え
私自身、仕事をしていて心が疲れてしまう日があります。体力的な疲れだけでなく、思うように介助できなかったり、入居者様の苦しみを前に無力さを感じたり。そんな日は、自分が「支える力」を失っているように思えるのです。
しかし、そんなときにふと入居者様の言葉に救われることがあります。
「いつもありがとう」
「あなたに会えると安心するよ」
「大変でしょ、体に気をつけてね」
支えているはずの私が、実は支えられている。そんな瞬間に気づかされます。支える関係は一方通行ではなく、互いに影響し合うものだと知ったとき、胸がじんわりと温かくなるのです。
誰にでも「支えが必要な部分」がある
どんなに強そうに見える人でも、どんなにしっかりしている人でも、心の奥には「支えて欲しい部分」があります。
ある入居者様は、周囲に弱音を吐かず、常に穏やかで優しい方でした。けれど、ある日の夜、ふと私に「本当はね、不安でいっぱいなんだ」と涙ながらに話してくださいました。その言葉に触れた瞬間、私は「この人も支えを必要としているんだ」と改めて感じました。
そして同時に思ったのです。
「私自身もまた、誰かに支えて欲しい気持ちを抱えながら生きている」と。
支えを求めることは弱さではない
多くの人は「支えて欲しい」と言えないまま、心の中に抱え込んでしまいます。特に真面目で責任感の強い人ほど、「自分でなんとかしなきゃ」と頑張りすぎてしまうのです。
けれど、支えを求めることは決して弱さではありません。
むしろ、自分の心の声に正直であるという強さだと思います。
老人ホームでの生活を見ていると、支えを素直に求められる人は、周囲との関係が柔らかく、心も安らいでいるように感じます。誰かに頼ることができる人ほど、逆に他者を思いやる余裕を持てるのです。
「支えてもらう」ことの喜び
人は誰かを支えるときに「役に立てた」と感じて嬉しくなります。ですから、誰かに支えを求めることは、その人に「あなたの存在が必要です」と伝えることにもなるのです。
私は時々、入居者様にあえてお願いごとをすることがあります。
「このお花、きれいに飾る場所を一緒に考えていただけますか?」
「今日は気分が沈んでいるので、ちょっと笑わせてください」
すると、入居者様は嬉しそうに応えてくださいます。支える側であっても、支えを求めることで“共に生きる”関係が生まれるのだと実感します。
あなたにも問いかけたいこと
ここで、この記事を読んでくださっているあなたに問いかけてみたいと思います。
あなたにも、誰かに支えて欲しいことはありませんか?
それは小さなことでも構いません。
〇「今日一日の出来事を聞いてほしい」
〇「疲れているから、そっとしておいてほしい」
〇「ただ隣に座っていてほしい」
そうした願いを、心の奥にしまい込んでいませんか?
自分を大切にする一歩
支えを求めることは、わがままでも迷惑でもありません。むしろ、それは「自分を大切にする一歩」だと思います。
介護の現場で学んだのは、人は誰かに支えられることで、心が和らぎ、自分らしく生きられるということです。そして、支え合う関係があるからこそ、人生のどんな局面も乗り越えていけるのです。
さいごに
介護士として働く中で、私は「支える」ことの尊さと同時に、「支えられる」ことの大切さを学んできました。人は一人で完結できる存在ではありません。誰かに支えられ、また誰かを支えることで、人生は豊かになっていきます。
だからこそ、どうか自分にも問いかけてみてください。
「私にも、誰かに支えて欲しいことはないだろうか?」
その気持ちに気づき、少しでも口にできたとき、あなたの心はきっと軽くなるはずです。
そして、支えを求めるあなたの姿は、周囲の誰かにとっても勇気や安心を与えるのではないでしょうか。
人は支え合って生きていくもの。
支える側であっても、支えられていいのです。
あなたが「支えてほしい」と願う気持ちを、大切に抱いてほしいと心から思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。