私は、老人ホームで働く介護士の「かいごの木」です。毎日、入居者様の方々と接し、彼らの生活を支える仕事をしてきました。時には辛いことも、悲しいこともありますが、やりがいを感じられる仕事でもあります。
そんな中で、今でも忘れられないエピソードがあります。
入居者様の方Aさんは、80代後半の女性で、認知症を患っていました。Aさんはとても優しい方でしたが、時々、自分がどこにいるのかわからなくなることがありました。
ある日、Aさんが突然、「家に帰りたい」と言い始めました。Aさんは、自分が老人ホームではなく、自宅にいると思い込んでいたのです。
私は、Aさんが不安にならないように、優しく「ここはあなたの家ですよ。ゆっくりとお休みください。」と声をかけました。
しかし、Aさんは納得せず、「いいえ、私は家に帰るんです!」と強く訴えました。私は、Aさんを無理に止めようとはせず、話を聞いてあげることにしました。
Aさんは、昔住んでいた家について、とても鮮明に語り始めました。Aさんの家は、田舎の小さな家で、庭にはたくさんの花が咲いていたそうです。
Aさんは、子供たちと庭で遊んだり、洗濯物を干したりした思い出を、楽しそうに話しました。
Aさんの話を聞いているうちに、私もその家にいるような気持ちになりました。Aさんの言葉には、過去の記憶が鮮明に宿っていました。
私は、Aさんに「その家は、とても素敵な家ですね。」と言いました。Aさんは、私の言葉に笑顔で答えてくれました。
その日の夜、Aさんはようやく落ち着きました。そして、翌朝には、自分が老人ホームにいることを思い出していました。
Aさんは、その日からまた元気に過ごしていましたが、あの日のAさんの表情は、今でも私の脳裏に焼き付いています。
認知症を患っている人は、過去の記憶が鮮明に残っていることがあります。そして、その記憶は、本人にとってとても大切なものです。
私たちは、認知症の方の話を、真剣に聞いてあげることが大切です。そうすることで、彼らの不安を和らげ、安心感を与えることができます。
また、認知症の方の過去の記憶を尊重することも大切です。彼らの記憶は、たとえそれが現実と異なっていたとしても、彼らにとってかけがえのないものです。
認知症の介護は、決して楽な仕事ではありません。しかし、入居者様の方々と接することで、多くのことを学ぶことができます。
私は、これからもAさんをはじめ、入居者様の方々一人ひとりに寄り添い、彼らの生活を支えていきたいと思っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。