kaigonoki’s diary

えがおの高齢者を増やす介護士

大根葉の味噌汁

今週のお題「感動するほどおいしかったもの」

数年前のお話です。

 

年末年始、私にとってそれは、いつもとは違う時間の流れを感じさせてくれる特別な期間です。

 

普段は老人ホームで介護士として働いており、年中行事も入居者さんと過ごすのが当たり前になってきています。

 

高齢者の方々と触れ合いながら、温かい言葉や笑顔をいただく毎日。

 

充実しているとは思うのですが、ふとしたときに、自分自身の「家族」や「故郷」のことを思い出すことがあります。

 

そんな中で迎えた、3年ぶりのお正月休み。新型コロナの影響もあり、しばらく帰省を見送っていた私は、ようやく実家に帰る決意をしました。

 

久しぶりの帰省に、少しの緊張とたくさんの期待を胸に、新幹線に乗り込みました。

 

降り立った駅は、どこか懐かしい空気をまとっていました。冷たい風に頬をなでられながら、小さな駅の改札を抜けると、そこには笑顔の母がいました。

 

3年という月日の中で、母の髪は少し白くなり、背中も以前より丸くなっていたように感じましたが、その表情は昔と変わらず、あたたかいものでした。

 

実家に着くと、変わらない景色がそこにありました。床の軋む音、少し古びたこたつ。すべてが、私にとっては「帰ってきた」と実感させてくれる大切な要素でした。

 

その日の夕方、母が台所で何やら準備を始めました。

 

「たいしたものはないけど、お味噌汁でも作ろうかね」

 

そう言って母が取り出したのは、大根の葉。スーパーで見かけても、葉っぱの部分は切り落とされていることが多いのですが、実家では畑から採ってきたままの大根が手に入るのです。

 

私の記憶の中でも、大根の葉を使った味噌汁は、子どもの頃によく飲んだ「母の味」そのものでした。

 

やがて台所から、香ばしい味噌の香りが漂ってきました。思わず鼻をくすぐり、心がほぐれていくような感覚。

 

お椀に注がれたその味噌汁には、ざく切りにされた大根の葉がたっぷりと浮かんでいました。

 

湯気の向こう側で、母が微笑んでいる。私は、その一杯を両手で受け取り、ゆっくりと口に運びました。

 

その瞬間、不意に目頭が熱くなりました。

 

味は、確かに素朴でした。

 

出汁は煮干し、味噌は昔ながらの田舎味噌。

 

大根の葉の少し苦味のある風味が、むしろ懐かしくて、やさしくて、涙が止まらなくなってしまいました。

 

「おいしいよ……すごく、懐かしい味だね……」

 

そう言いながら、ぽろぽろと涙を流す私を、母は何も言わずに見守ってくれました。

 

たぶん、母も何か感じ取っていたのだと思います。言葉にしなくても、通じ合えるものが家族にはあるんだなと、しみじみと思いました。

 

介護士として働く毎日は、もちろんやりがいのある仕事です。でも、人の「終わり」に寄り添うことが多い分、自分自身の「始まり」や「原点」を見失いがちになる瞬間もあります。

 

今回の帰省で、母の味噌汁を通して、自分がどこから来たのかを思い出せた気がします。

 

母の手料理は、豪華なものではありません。ただ、大切なものがたくさん詰まっています。

 

季節の野菜、出汁の香り、そして何より「あなたのために作ったよ」という気持ち。そのひとつひとつが、心を温かくしてくれるのです。

 

お正月休みの数日間は、あっという間に過ぎていきました。また老人ホームの現場に戻り、忙しい日々が始まりますが、今の私はどこか芯が一本通ったような感覚があります。それは、あの味噌汁が、心の奥にある何かを呼び起こしてくれたからだと思います。

 

これからも介護の仕事を通して、誰かの心に残る「温かさ」を届けていきたい。そして、いつか私も誰かにとっての「懐かしい味」になれたら。そんなふうに思うようになりました。

 

「ありがとう、お母さん。また帰るね」心の中でお墓に話しかけていました。

 

そうです。母はもうこの世にはいませんが、私の心の中にしっかりと存在しています。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。