「いつか、何も感じない心になれたら楽なのに」
「つらいことがあっても、動じない強さがあったら…」
そう思ったことはありませんか?
介護という仕事は、人の命や生活に関わる尊い仕事であると同時に、感情が揺さぶられる場面が本当に多い仕事です。
入居者様の変化に敏感になり、優しく接しようと思うあまり、自分の心が疲れてしまうこともあります。
ある日突然、仲良くしていた入居者様がいなくなってしまう。
心ない言葉を浴びせられた。
チームの中で意見が合わない。
もっと良いケアをしたいのに、時間も人手も足りない。
——そんな現実の中で、何度も「苦しさ」と向き合うことになります。
だからこそ、「苦しまない心」を持てたら、もっと楽に働けるのに、と思ってしまうんです。
でも、私は最近こう思うようになりました。
苦しさを感じること自体が、間違いではないし、そこに価値がある。
そして、「苦しまない心」を無理に手に入れる必要はないのだと。
感じる心が、あなたを介護士にしている
人の気持ちに敏感な人ほど、つらさを抱えやすいものです。
「この人、今日はなんだか元気がないな」
「いつもより少し声のトーンが暗いかも」
「さっきの言葉、あの方には少し強すぎたかもしれない」
——そんな小さな変化や空気を感じ取りながら働いているあなたは、間違いなく“寄り添う力”のある人です。
でも、その「感じる心」があるからこそ、落ち込んだり、涙をこらえたり、自分を責めてしまったりもする。
感じない心、傷つかない心があれば楽なのに、とふと思うこともありますよね。
けれど、それはあなたが人に対して本気で向き合っている証拠です。
心が痛むのは、決して弱さではなく、優しさの証なんです。
苦しむことは、悪いことじゃない
現代は、「ポジティブ思考が正しい」「つらいことは乗り越えるべき」
という空気が強くなっています。
もちろん前向きな気持ちは大切ですし、それに救われる場面もあります。
でも、すべてをポジティブに変換しなきゃいけないような、そんな空気に苦しんでいる人も少なくないはずです。
私は、こう考えています。
苦しみを無理に変える必要はない。
感じること自体を、否定しなくていい。
悲しいことがあれば泣いていいし、悔しい思いをすれば心に留めておけばいい。
つらいときに「つらい」と言える場所や相手があれば、それで十分です。
そして、「苦しまない自分」になろうとしなくても、
苦しむあなたが、すでに十分がんばっているのだということを、忘れないでほしいのです。
介護の現場には「心」があるからこそ
私がこの仕事を好きでいられる理由のひとつは、
「人と人が向き合っている」という感覚が、ちゃんとあるからです。
マニュアル通りに進まないことばかりだけれど、
そこにあるのは、その人の人生であり、物語です。
失語症で言葉が通じなくても、目の動きや手の握り方で気持ちが伝わることがあります。
機嫌が悪かった方が、ふとした拍子に見せる優しいまなざしに、こちらが救われることもある。
その一つひとつに「心」がある。
その「心」と向き合うには、自分の心も開かなくてはいけない。
だから、介護の現場にいる人たちは、皆、どこかで悩み、揺れているんだと思います。
「何も感じない」ことが正解ではない
「プロとして感情を持ち込むべきではない」という声を聞くこともあります。
でも、私はそうは思いません。
もちろん、感情に任せて仕事をしてはいけないし、冷静な判断が求められる場面もたくさんあります。
けれど、感情を持たないことがプロフェッショナルなのではなく、
感情を持ちながら、それとどう向き合い、どうケアに活かしていくかが大切なのではないでしょうか。
悲しみを知っている人は、他人の悲しみに寄り添える。
痛みを知っている人は、そっと手を差し伸べられる。
そして、苦しみを知っている人は、誰かの苦しみを否定しない。
その優しさこそが、介護という仕事の価値を支えている気がするのです。
「苦しみ」を持っているあなたへ
今、もしあなたが、
「この仕事、もう無理かもしれない」
「毎日がつらくて、心が追いつかない」
そんなふうに感じていたとしたら…
それは、あなたが今までたくさんのことに真剣に向き合ってきた証拠です。
そして、ちゃんと「心を使って生きてきた」証です。
どうか、自分に優しくしてください。
「苦しまない心」を手に入れる必要はありません。
そのままのあなたで、十分すぎるほど価値があります。
さいごに
介護という仕事は、見えない努力や感情の蓄積の上に成り立っています。
報われないと感じることも、投げ出したくなることもある。
でも、あなたが日々向き合っているその「心」が、
今日も誰かを救っているかもしれません。
強くなくてもいい。
無理に笑わなくてもいい。
感じる心を持ったまま、少しずつ進めばいい。
「苦しまない心」を持とうとしなくても、
苦しんだあなたがいるからこそ、できるケアがあります。
そして、それは必ず誰かに届いています。
今日も、あなたがそこにいてくれることに感謝しています。
最後までお読みいただきありがとうございます。