「もうだめかもしれない」
「私って、こんなにもできなかったっけ…?」
「なんで、あの人みたいにうまくやれないんだろう…」
そんな言葉ばかりが、心の中にぐるぐると回っていた時期がありました。
私は老人ホームで働いている介護士です。毎日、高齢者の方と接しながら、笑ったり、悩んだり、必死で日々を積み重ねています。
でもどんなに経験を重ねても、「心がついていかない」時期というのは、どうしてもあるものです。
うまく動けない。気持ちが沈む。失敗が増える。周囲の視線ばかりが気になって、自分を責めてばかり…。
これは、数か月前の私の姿そのものでした。
「スランプ」という名の、出口のないトンネル
人は誰しも、調子のいいときもあれば、悪いときもあります。でも、その「悪い時期」が長く続くと、だんだん自分を見失っていきます。
私もそうでした。
何をやってもうまくいかない気がして、誰かの「ありがとう」の言葉さえ、自分への慰めのようにしか受け取れなくなっていました。
自信なんてすっかり失っていて、「私なんかが介護の現場にいて、入居者様のためになるのかな」と本気で思っていたのです。
仕事中もミスが続き、表面上は笑顔でいても、内側ではいつも「また怒られるかもしれない」「もう信頼されていないかもしれない」という不安でいっぱいでした。
スランプとは、ただ「不調」なのではなく、心が自分の価値を見失ってしまっている状態なのだと、私はその時初めて知りました。
下を見てばかりでは、光に気づけない
ある日、夜勤明けの朝に、ふと施設の裏庭に出ました。夜の静けさがまだ残るその空間で、ぼーっとベンチに座っていたときのことです。
地面ばかり見ていた私の視界に、ふと一輪の花が映りました。雑草に混じって、ほんのり朝日を浴びながら、小さく咲いていたその花は、まるで何も語らずにそこにいるようでした。
その瞬間、気づいたんです。
私はずっと「足元」ばかり見ていた。つまずいた石、泥だらけの靴、進めない道。そこばかりを見つめて、「もうダメだ」と決めつけていた。
けれど、少しだけ視線を上げたら、そこには光を浴びて咲く花があった。こんなにも近くに、こんなにも静かに。
それは、ほんの一瞬の気づきでした。でも私にとっては、それがスランプから抜け出す最初の小さな扉になったのです。
自分を責めるより、今の自分に寄り添ってあげる
介護の仕事をしていると、「人に優しく」することは日常の一部です。でも、いざ自分自身にはどうかと問われると、私はまったく優しくしていませんでした。
「どうしてこんな簡単なことができないの?」
「また同じミスをして…」
「周りに迷惑かけてばかり…」
自分に向ける言葉は、どれも鋭く、冷たく、厳しいものばかりでした。でも、よく考えれば、入居者様が同じような言葉を自分に向けていたら、私はきっとこう返していたはずです。
「大丈夫、できることを一緒に探していきましょう」
「人間だもの、間違えることだってある」
「あなたがここにいてくれるだけでありがたいんです」
そうやって他人にかけている言葉を、自分に向けてもいいんですよね。本当は。
スランプの中にいると、自分を励ます力が湧いてこないのは自然なこと。でもそんなときこそ、自分に優しく語りかける言葉を思い出してみてほしい。
今のあなたは、少し疲れているだけかもしれません。
小さな成功を「見逃さない目」を持つ
スランプのときは、大きな達成や成長ばかりを目指してしまいがちです。「これくらいできなきゃ」「もっと頑張らなきゃ」と、自分にハードルを課してしまう。
でも、ある時先輩に言われたことがあります。
「何もできていないように思ってるかもしれないけど、今日あなたがあの入居者様に寄り添って、じっと話を聞いていた時間、すごくあたたかかったよ」
その一言で、私は泣きそうになりました。
「ちゃんとやっていた」「少しは役に立てていた」――それを他人の言葉で知ると、自分の中の冷たい壁が少しずつ溶けていくのを感じました。
だから私は今、小さな成功や「できていること」を見逃さないように、意識して心のメモ帳に書き留めています。
🌈ミスはあったけど、最後まで諦めずにやりきった
🌈落ち込んでも、翌日は出勤できた
🌈入居者様の笑顔が一度でも見られた
そんな「小さなできた」を、自分の心の栄養にするようにしています。
おわりに:スランプを抜ける鍵は、自分の手の中にある
もし、あなたが今「スランプの真っただ中」にいるなら、きっと出口なんて見えないと思っていることでしょう。私も、まさにそうでした。
でも、ほんの少しだけ視線を上げてみてください。見落としていた小さな光、誰かのやさしさ、自分のがんばりが、そこにあるかもしれません。
下ばかり見ていると、わずかな光すら見えなくなります。だから、時には「下を向いている自分」に気づいて、そっと顔を上げてみる。その小さな動きこそが、スランプを抜け出すための一歩になるのだと、私は信じています。
どうかあなたも、自分の今を責めずに、寄り添ってあげてください。そして、今日より少しだけ楽になれる明日が、そっとあなたのそばに訪れますように。
最後までお読みいただきありがとうございます。