kaigonoki’s diary

えがおの高齢者を増やす介護士

自分の意見も他人の意見も同じ意見と考えよう

 介護の現場で働いていると、人との関わりの中で「意見の違い」に直面することが本当に多くあります。

 

入居者様ご本人の希望、ご家族の想い、同僚スタッフの考え方、そして自分自身の意見――。それぞれに「正しさ」や「大切にしたい思い」があり、時にすれ違いや衝突を生むこともあります。

 

 たとえば、「食事はもっと柔らかい方がいい」という入居者様の声と、「栄養を考えるとこの形が良い」という栄養士さんの意見。

 

あるいは、「急がないと次の業務に間に合わない」というスタッフの焦りと、「ゆっくりやってほしい」という入居者様の希望。

 

どちらも決して間違ってはいないけれど、立場や視点の違いから「どっちが正しいの?」という空気になってしまうことがあります。

 

 そんなとき私は、「自分の意見も他人の意見も、同じ“意見”なんだ」と考えるようにしています。

 

これは一見当たり前のようですが、実際に意識し続けるのはなかなか難しいことです。私自身も何度も悩みながら、この考え方に少しずつ助けられてきました。

 

「意見=その人の経験と価値観の結晶」

 意見というのは、ただの言葉のやり取りではありません。そこには、その人が生きてきた背景や経験、価値観が詰まっています。

 

 例えば、ある入居者様が「毎日お味噌汁を飲みたい」と希望されたとします。栄養士の立場から見れば、塩分制限を考えれば難しいかもしれません。

 

でも、その方にとってお味噌汁は「家庭の温かさ」や「過去の生活習慣」に結びついた大切な存在かもしれないのです。

 

 一方で栄養士の「塩分は控えたい」という意見も、決して間違っているわけではありません。健康を守りたいという思いが根底にあるからこそ出てきた言葉です。]

 

 つまり、「毎日お味噌汁を飲みたい」という意見と「塩分を控えたい」という意見。どちらも「その人が大切にしているもの」から生まれた声であり、同じだけの重みを持っています。

 

「正しい・間違い」で線を引くと苦しくなる

 介護現場では、「どちらの意見が正しいのか」と答えを出さなければならない場面も少なくありません。しかし、そのたびに「勝ち負け」を意識してしまうと、人間関係はぎくしゃくしてしまいます。

 

 私は新人の頃、上司の意見に対して「自分の考えの方が正しいはず」と心の中で強く思ってしまい、納得できないまま業務を進めたことがありました。

 

その結果、チームワークが乱れ、余計に仕事が大変になったのです。今思えば「自分が正しい」と主張する気持ちの裏側には、「自分を認めてもらいたい」という不安や焦りがあったのだと思います。

 

 逆に、相手の意見を尊重しすぎて「自分の考えは間違っている」と否定してしまったこともあります。そのときは、自分の中にしこりが残り、心が疲れてしまいました。

 

 だからこそ今は、「正しい・間違い」で線を引くのではなく、「これは私の意見」「それは相手の意見」と同じ土俵に並べて捉えるようにしています。

 

「同じ意見」と考えることで広がる世界

 自分の意見も、相手の意見も、同じ一つの「意見」として受け止めてみる。すると不思議と心が軽くなることがあります。

 

 意見を「正しいか間違いか」ではなく、「なるほど、そういう考えもあるんだ」と並列で受け止めると、相手を否定する必要がなくなります。むしろ「一緒にどうすればいいか考えよう」という気持ちが湧いてくるのです。

 

 これは入居者様との関わりでも同じです。「入浴はしたくない」という声と「清潔を保ちたい」という職員の思い。どちらも「意見」として並べて考えると、「入浴の代わりに清拭をする」など、お互いが納得できる折衷案が見つかりやすくなります。

 

介護現場での実体験

 以前、ある入居者様が「夕食はもっと遅い時間にしてほしい」と希望されたことがありました。

 

しかし施設の食事提供の時間は決まっていて、大幅にずらすのは難しい状況でした。私は内心「それは無理だろう」と思ってしまいましたが、同僚が「どうして遅い時間がいいんですか?」と丁寧に尋ねてくれたのです。

 

 すると、その方は「若い頃から家族で遅い時間に夕食を囲むのが習慣だった」と話してくれました。その理由を聞いたとき、私はハッとしました。

 

単に「時間をずらしたい」という要求ではなく、その人にとっての「生活リズム」や「家族の記憶」が詰まった大切な意見だったのです。

 

 最終的には、食事の提供時間そのものは変えられませんでしたが、主食を少しだけ取り分けて後で召し上がっていただく工夫をしました。

 

入居者様も納得してくださり、笑顔が戻ったとき、「相手の意見を一度“同じ意見”として受け止めることの大切さ」を実感しました。

 

読者の皆さんへ

 日常生活の中でも、家族や友人、職場の仲間との意見の食い違いに悩むことはありませんか?


 そんなとき、「自分が正しい」「相手が間違っている」と考えると、心はどんどん窮屈になっていきます。

 

 でも、「これは私の意見」「これは相手の意見」と、同じテーブルに並べて置くように考えてみてください。すると、不思議と気持ちに余裕が生まれます。

 

そして「どちらが正しいか」ではなく「どうすればお互いにとって良い形になるか」と考えられるようになります。

 

わりに

 「自分の意見も他人の意見も同じ意見と考えよう」


 この言葉は、介護の現場だけでなく、日常のあらゆる人間関係に通じる大切な視点だと思います。

 

 意見は「戦わせるもの」ではなく、「持ち寄って分かち合うもの」。その積み重ねが、信頼関係や安心感を育てていくのだと、私は日々学び続けています。

 

 どうか、あなたも自分と相手の意見を並べて眺める心の余裕を持ってみてください。その瞬間から、人との関係は少しずつ温かく、穏やかに変わっていくはずです。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。