老人ホームで働く介護士として日々入居者様と向き合っていると、しばしば自分自身に問いかけることがあります。
「私は、自分に正直に生きているだろうか?」
入居者様の思いや家族の気持ち、そして職場の状況を優先するあまり、自分の本心を後回しにしてしまうことはありませんか?
介護という仕事は、誰かのために尽くすことが前提にあるからこそ、自分を犠牲にすることに慣れてしまうのです。
でも、本当にそれでいいのでしょうか。この記事では「自分に正直であること」について、一緒に考えてみたいと思います。
🌕 「正直でいること」が難しい理由
そもそも、なぜ私たちは自分に正直でいることが難しいのでしょうか。
1.「いい人」であろうとするから
介護の現場では、入居者様やご家族から「ありがとう」と言われたい気持ちが自然と芽生えます。職場でも「協調性がある人」と思われたい。そうしているうちに、「嫌だな」「疲れたな」という本音を押し殺してしまうことがあります。
2.衝突を避けたいから
「こうしてほしい」と自分の意見を出すと、人間関係にひびが入るのではないかと不安になります。特にチームで働く介護の仕事では、「波風を立てるくらいなら自分が我慢しよう」と思ってしまうのです。
3.本音に気づかないまま動いてしまうから
忙しい日々の中で、自分の気持ちを振り返る時間が取れないこともあります。すると「本当はどうしたいのか」「私は何を望んでいるのか」に気づけないまま、流されるように日々を過ごしてしまうのです。
🌕 「自分に正直でない」とどうなるか
最初は小さな我慢でも、それを積み重ねていくと、心はどんどん疲れてしまいます。
〇「どうして私ばかり頑張っているの?」
〇「本当はやりたくないのに…」
〇「誰も私のことなんて分かってくれない」
そんな思いが心に積もり、やがて「無気力」「苛立ち」「自己否定」といった形で表に出てきます。
自分に正直でない状態は、自分自身を裏切ることでもあります。それは少しずつ、自分との信頼関係を壊してしまうのです。
🌕 自分に正直でいることは「わがまま」ではない
ここで大切なのは、「自分に正直でいること=わがまま」ではない、ということです。
介護の現場でも、家庭でも、周りに気を遣いすぎる人ほど「自分の気持ちを出すなんて わがままじゃないか」と思ってしまいます。でも本当は逆です。
自分に正直でいるからこそ、自分の心が満たされ、他者に対しても自然にやさしさを注ぐことができます。自分を偽って無理を続ければ、やがて笑顔もやさしさも形だけのものになってしまう。
つまり、自分に正直であることは、長い目で見れば「相手を大切にすること」にもつながっているのです。
🌕 自分に正直でいるための3つの実践
では、どうすれば「自分に正直でいること」を日常で実践できるのでしょうか。ここでは私が介護の現場や日常で意識していることを紹介します。
1.小さな「イヤ」を見逃さない
たとえば「今日は残業したくないな」「今は休憩したいな」という気持ち。これを「たいしたことない」と押し殺さずに認めることです。心の中の小さなサインに耳を傾けることが、正直さの第一歩です。
2.「私はこう思う」を口にする
大きな意見を言うのは難しくても、「私はこう感じた」という形なら伝えやすくなります。事実や正解ではなく、自分の気持ちをシンプルに伝えること。それが自分に正直である姿勢です。
3.「できること」と「できないこと」を区別する
介護の現場はやるべきことが多く、完璧を目指すと必ず無理が出ます。「今の私にはここまでできる」と線を引くことは、逃げではなく誠実さです。限界を知ることこそ、自分に正直である証です。
🌕 老人ホームで気づかされる「本音の大切さ」
入居者様と接していると、本音を伝えることの大切さを教えられる場面がたくさんあります。
「痛いときは痛いと言ってね」
「寂しいときは寂しいって言っていいんですよ」
私たちはよく入居者様にそう声をかけます。でも、これは入居者様に限らず、私たち自身にも必要な言葉です。
「本音を出すことで、相手に迷惑をかけるのでは?」と思うかもしれません。けれど、不安やつらさを隠して無理をするよりも、正直に伝えることで人と人との関係はむしろ深まります。
ある入居者様が、私にこう言ったことがあります。
「ごめんね、今日はどうしても気分が乗らないんだ」
その一言で、その方の表情がすごく穏やかになったのを覚えています。本音を出した瞬間、人は安心するのです。
🌕 あなたはどうですか?
ここで改めて、あなたに問いかけます。
「自分に正直であることを、実践できていますか?」
もし今「できていないかも」と感じたとしても、それは悪いことではありません。気づいた時点で、そこから少しずつ正直さを取り戻していけばいいのです。
正直さは大きな宣言ではなく、日々の小さな選択に宿ります。
〇今日は疲れているから早めに寝よう
〇これは私には合わないから断ろう
〇本当は嬉しかった、と伝えてみよう
そうした小さな実践が積み重なると、心は少しずつ軽くなっていきます。
🌕 さいごに
自分に正直であることは、決して簡単ではありません。人との関係、責任、役割…さまざまな事情の中で本音を出すのは勇気がいることです。
でも、自分の心を偽り続ければ、いつか心は悲鳴を上げてしまいます。だからこそ、自分に正直であろうとすることは、自分を守ることでもあり、他者を大切にすることでもあるのです。
介護の現場に立つ私たちだからこそ、まずは自分自身の心に正直でいてほしいと思います。
あなたの「小さな本音」に耳を傾けること。それが、よりやさしく、より誠実に人と向き合う力につながっていくのだと思います。
どうか今日、ほんの少しでも「自分に正直な一歩」を踏み出してみてください。
最後までお読みいただきありがとうございます。