介護士として老人ホームで働いていると、毎日「がんばらなきゃ」「ちゃんとしなきゃ」という気持ちに背中を押される場面がたくさんあります。
入居者様に安心して過ごしていただくため、同僚に迷惑をかけないため、家族に心配をかけないため――理由はいろいろありますが、ふと立ち止まって考えると「私、いったい何のためにこんなにがんばっているんだろう?」と心が追いつかなくなる瞬間がありませんか。
「ちゃんとする」ことは大切です。
「がんばる」ことも、もちろん必要です。
でも、その目的を見失ってしまうと、私たちはいつの間にか自分を追い込み、心も体もすり減らしてしまいます。
今日は「ちゃんとする」「がんばる」をめぐる問いを、介護士としての経験や日々感じていることを交えながら、一緒に考えてみたいと思います。
1. 「ちゃんとしなきゃ」の裏にあるもの
介護の現場では「ちゃんとする」ことが求められます。
🌕記録は漏れなく正確に
🌕手順通りに安全にケアを行う
🌕入居者様やご家族には丁寧な対応を
これらはもちろん大切なことです。誰かの命や安心に関わる仕事だからこそ、「ちゃんと」が土台になっています。
でも、心のどこかで「失敗してはいけない」「ミスをしてはいけない」という強いプレッシャーに変わってしまうと、自分を必要以上に縛りつけてしまいます。
私自身、入浴介助のときに焦ってしまい、「あれもしなきゃ」「これもしなきゃ」と頭がいっぱいになったことがあります。
すると、表情や声のトーンが硬くなり、入居者様に「今日はなんだか急いでるね」と言われてしまいました。ハッとしました。ちゃんとしようとすればするほど、相手に安心を届けられなくなっていたのです。
2. 「がんばる」はどこまで必要?
介護の仕事は体力も気力も必要です。夜勤が続けば睡眠も削られますし、日勤でも一日中動き回ります。そんな中で「もっとがんばらなきゃ」と自分を鼓舞し続けていると、気づけば燃え尽きてしまうこともあります。
「がんばる」ことは悪いことではありません。大切なのは、「どこまでがんばるか」を自分で見極めること。
ある同僚がこんなことを言っていました。
「私は100%の力をいつも出そうとすると、すぐにしんどくなっちゃうから、あえて80%くらいを意識してるよ。その方が結果的に続けられるし、入居者様にも優しくできるんだよね」
その言葉を聞いたとき、目から鱗が落ちました。
「がんばり続ける」ことよりも「続けられるがんばり方」を選ぶこと。それが介護の現場では特に大切なのだと感じました。
3. 誰のために「ちゃんと」しているのか?
私たちはつい「人に迷惑をかけないように」「職場で評価されるように」と外の基準で「ちゃんとしなきゃ」と思ってしまいます。けれど本当に大切なのは、「自分が納得できる形でちゃんとする」ことではないでしょうか。
入居者様の食事を丁寧に配膳する。
声をかけるときに目を見て笑顔を添える。
その一つ一つは「誰かのため」であると同時に、「自分がこうありたいから」でもあるはずです。
「ちゃんとすること」は、他人から褒められるためではなく、自分自身が「今日も大事に関わることができた」と感じられるためのもの。そう考えると、ちゃんとすることが義務から喜びに変わっていきます。
4. 「がんばらない勇気」も大切に
ときには「ちゃんとしなくてもいい」「がんばらなくてもいい」と自分に許可を出すことも必要です。
例えば、仕事の後に部屋が散らかっていても「今日は片づけなくていいや」と割り切る。
料理が面倒な日は、お惣菜やコンビニに頼る。
同僚や家族に「助けて」と素直に頼る。
こうした小さな「がんばらない選択」は、自分を守るためのやさしさです。がんばらなさすぎて生活が崩れるのは困りますが、「がんばらないときがあってもいい」と思えることで、心に余裕が生まれます。
5. 「ちゃんとする」「がんばる」を自分のものにする
結局のところ、「ちゃんとする」「がんばる」は誰かに強制されるものではなく、自分がどう生きたいかにつながっています。
私が介護の仕事を続けている理由は、入居者様が安心して過ごせるお手伝いをしたいから。そして、その中で自分自身も人として成長したいからです。
だから「ちゃんとする」のは、誰かに怒られないためではなく、自分がその人の人生に丁寧に向き合いたいから。
「がんばる」のは、評価を得るためではなく、自分が大切にしている人たちを笑顔にしたいから。
そう思えたとき、同じ「がんばる」でも、苦しさよりもやりがいを感じられるようになりました。
6. まとめ ― 「何のため?」と問い続ける
「ちゃんとする」「がんばる」ことは大切です。けれど、その目的を見失ってしまうと、ただ自分を追い込むだけになってしまいます。
だからこそ、時々立ち止まって自分に問いかけてみましょう。
「私は何のために、ちゃんとしようとしているんだろう?」
「私は誰のために、がんばっているんだろう?」
その答えが「誰かに褒められるため」だけではなく、「自分が納得できるため」「大切な人の笑顔のため」だったと気づけたとき、心は少し軽くなります。
ちゃんとしなくてもいい日もある。
がんばらなくてもいい瞬間もある。
でも、「何のために?」と問い続けることが、自分のやさしさとつながり、毎日の仕事や暮らしを支えてくれるのではないでしょうか。
おわりに
介護士という仕事は、とても尊い反面、自分を犠牲にしてしまいがちな職業でもあります。だからこそ、「ちゃんとする」「がんばる」を見直し、自分なりの意味を見つけていくことが大切です。
読んでくださった方がもし今、「ちゃんとしなきゃ」「もっとがんばらなきゃ」と疲れているのなら、どうか一度立ち止まって、自分に問いかけてみてください。
その問いかけの中にこそ、本当のやさしさや、自分らしい働き方のヒントが隠れているはずです。
最後までお読みいただきありがとうございます。